【コラム】ヘルプデスク業務の極意

ヘルプデスク
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はじめに

私は、10年間ほどヘルプデスクというお仕事をしていました。コールセンターからエスカレーションされたトラブルや現場SEからの問合せに対応するのが主な仕事でした。
ヘルプデスクには、想定外の質問がたくさん寄せられました。
時々「これって本当に起きたことなの?」っていうような話もありました。
例えば…

◯月×日(雨のち曇)「
「机の配置換えをしたら、共有フォルダーにアクセスできなくなりました。原因を教えてください。」
「配置換えのときに何かしませんでしたか?思い当たることはありませんか?」
「いえ、何もしていませんし、思い当たることもありません。すぐにアクセスできるようにしてください。」

何もしていないってことはないでしょう…せめてもうちょっと詳しく…
「原因」を教えてほしいって言ったじゃないですか…

◯月×日(快晴)「
「サーバーのモニター画面に、[このコンピュータはロックされています。管理者のみがこのコンピュータのロックを解除できます。]と表示されています。今すぐパスワードを教えてください。」

神様じゃないんで、そんな超能力は持っていません…
いや、そもそも管理者のパスワードは知っていても教えられません…

◯月×日(くもり)「
「夜中に勝手にパソコンが起動することがあります。お祓いした方がいいでしょうか。怖いので、何とかしてください。」

(パソコンに夜は大人しくしててねって優しく語りかけてはいかがでしょうか)

はじめてのパソコンはMZ-1500

はじめてパソコンに触れたのは小学校の頃でした。当時、おこづかいや新聞配達(夕刊)、捕獲したイナゴの売却(←これ、本当です)などで必死にお金を貯めました。今思えば、なぜイナゴだったのか思い出せませんが、それは置いておきます。そしてついに、シャープのMZ-1500というパソコンを購入しました。

そのパソコンに搭載されていたQD(クイックディスク)が、壊れるほど使いまくりました。マイコンBASICマガジンに掲載されているプログラムを打ち込みながら、いろいろ覚えていったことを思い出します。自分の初恋は、このパソコンだったのかもしれません(嘘)

そんな風にして、パソコンにどんどん詳しくなっていきました。当時は、パソコンマニアと呼ばれていましたが、今では誰でもパソコンを使う時代になりました
時代の先駆者だったと言っても過言ではありません(過言だって!)

社会人になり、世の中にWindows95が登場しました。これがまた画期的なOSで、多くの人がパソコンを使うようになるきっかけとなりました。もちろん、自分もWindows95を使っていました…が、このOS正直言ってバグだらけでした。恐怖の青画面と呼ばれるブルースクリーンに何度遭遇したことか…(マイクロソフトさん、すみません)

ちょっと話がそれまくりですが、そんなこともあり、友人や知人にパソコンの操作方法を教える機会が増え、トラブル解決法についてサポートすることも多くなってきました。

ヘルプデスクとの出会い

20代の頃は、自分が好きなこと(ちゃんと働いてましたよ)をしていました。30代になると現実に直面し、将来を考えた上で、IT企業に就職(転職)しました。最初は楽しかったです。OSのインストールや環境構築、動作検証、マニュアル作成など、担当していた仕事は私の得意分野でしたから。

しかしある時、ヘルプデスク業務を兼任してくれれと、当時の上司が(言いやがっ…)おっしゃって、問答無用で担当せざるを得なくなりました。

ヘルプデスクでは、コールセンターからエスカレーションされてきた、難解なトラブル対応を担当することが多く、友人たちをサポートしていた時とは違って、冷や汗と苦闘の連続でした。

「パソコンが動かない」と言われても、それだけでは何も分かりません。どんな状況なのか、どんな操作をしたのか、どんなエラーメッセージが出たのか、など、詳細をヒアリングしなければなりません。しかし、ユーザーさんはそれらの情報を覚えていなかったり、記憶が曖昧だったり、真実を話してくれなかったりすることが多いのです。

トラブルを解決することより、問題解決につながる正確な状況の確認、トラブル解決につながる情報を聞き出すことが大変でした。

前置きが長くなりましたが、次回から私のサポート業務経験から得た3つの極意(と呼べるかどうか…)についてご紹介します。

極意①事実のみを聞き出す

お問い合わせをいただくと、まずはじめに頭の中で「おはよう。さあ始めようか。ゲーム開始のファンファーレ~」というセカオワの曲が鳴り響くわけです。そこから、状況をヒアリングして、その会話から得られた情報を元に、発生しているトラブルを想定します。

次に、想定したトラブルの対処方法を伝えるのですが、なかなか解決しません。何度も何度もやり取りをし、長い時間をかけて突き詰めていくと、実は当初聞いていた内容と、実際の状況が全く異なっていた…ということがよくあります。

もちろん、こちらの思い込みによる誤解もあるのかもしれませんし、もっと経験をつめば対応時間を短縮できるのでしょう。それでも、「もっと正直に話してくれれば早く解決するのに」と思うことがしばしばあります。

まるでトラブルが忍者のようこっそりやってきて、やった操作を隠して逃げちゃうみたいな感じです。でも実際、その「こっそり操作」にこそ、トラブル解決の糸口につながることが多いんです。だから「こっそり操作」を探し出すのは、問題解決の宝探しのようなものです。

多くの場合、ユーザーさんはトラブルが発生する直前に行った操作を正直に話してくれません。トラブルの多くは、ユーザーさんによる直前の操作が原因となる場合も多いので、そこを早く聞き出すことができれば、問題解決まで最短の道のりで到達できるはずなのですが、なかなか思うようにはいきません。

これには全く相反する2つの原因が考えられると思っています。

まさかそんな些細なことが原因でトラブルが発生したとは思っていない
もしかしたら自分の操作に原因があるかもしれないと思っている

いずれの場合も、利用者のある種のフィルタによって正しい情報が得られづらくなります。友人や知人をサポートする場合と異なり、面識のないユーザーとのコミュニケーションは容易ではありません。顔の見えない相手とのやり取りはちょっとした謎解きゲームのようです。

だからこそ、いかに話しやすい雰囲気をつくることが重要だと思っています。そのためには、「責任の所在を追求する」といったサド的な欲求を満足させたいなどと思わないことが重要ですし、それはサポート(ヘルプデスク)の仕事ではありません。「どうやったら早く解決できるか」を最優先すべきです。

ユーザーさんは、「自分の操作が原因でトラブルが起こってしまったのではないか」と感じることが多いと同時に「自分はパソコンのことちょっと詳しいんだから」と装う傾向もあります。そのせいでしょうか、主観が多分に混じった情報を話したがることがあり、それによってサポート側の人間(つまり私ですが…)は、正しい判断ができなくなることがあります(未熟者ですみません…)

サポートのスーパーヒーローになるには、ユーザーさんの主観にまどわされず、多くの言葉の中から事実を抽出する能力が求められます。それを手助けしてくれるのは自分自身の経験値もさることながら、ユーザーさんであることは間違いありません。すなわち、ユーザーさんにとってどんなに些細と思われる情報であっても、それが解決の手助けになる可能性のあることを理解していただく、ということも重要なのです。

ユーザーさんが気にも留めなかったちょっとした情報が、問題解決への道に繋がることもあります。だからこそ、サポート側の人々はその可能性を広く伝え、ユーザーさんから細部の情報を話してくれるよう促すことが大切なのです。つまり、ユーザーとのコミュニケーションは、協力して問題解決へ導くための大切なステップとなります。

極意②原因を理解してもらう

以前、次のような事象が発生しました。

SEの方から、あるソフトウェアの管理コンソールにログオンできなくなったという問い合わせをいただきました。
(おっさんSEがパソコンの画面を見つめながら、途方に暮れるシーンが目に浮かびます)
状況を調査した結果、ドメインコントローラーの再セットアップが行われたことにより、アカウントのSID(難しそうな専門用語、でも超重要!)が、変更されてしまったことが原因でした。

問題が解決した後、トラブルの根本原因を詳しく説明をしたのですが、相手から返ってきた言葉は、

「よくわからないけど、解決したからいいや。」

まさかの理解不能モード発動!!

「よくわからない」と言われてしまったことに対する自分の無力さ以上に、結果的に「また同じトラブルを発生させてしまうかもしれない」というリスクを生じさせてしまったということに大きなショックを受けました。

問題を解決することは我々の最低限の仕事であり、同じトラブルを繰り返させないことが重要なのではないかと考えていたからです。だとすれば、「よくわからない」などと言われてしまってはいけないのではないか…と。

このような理由から、一時的なトラブルへの対応だけでなく、問題の根本原因を理解していただくことが、サポート業務の真髄だと私は考えています。そのために、状況にあった例え話を使ってご理解いただくように工夫してきました。また、今後同様の問題が発生した際に考えられるリスクをお伝えし、「これってヤバいんすよ!」と気づいていただく工夫もしています。

ただ…あまりしつこすぎても逆効果なので、難しいところではありますが…(ウザッ)

極意③必ず教訓を残しておく

時には、これはありえない…と思われるようなクレームを受けることもあります。
その一例をご紹介します。

お客様によると、「昨日はインターネットが使用できたが、今日はつながらない。」とのことで、かなり怒り心頭の様子。電話の向こうからブチ切れそうな感じが伝わってきました。この時点で、私は弊社の導入した機器の障害だと考えていました。なぜなら、昨日までは問題なく使用できていたわけですし…

ところが、現地での調査の結果、インターネットプロバイダーの切り替え工事が完了していなかったことが原因だと判明しました。ここで私、内心で「さすがにそれは…」と思わずにはいられませんでした。率直に言ってしまえば、弊社は一切あずかり知らぬことでした。

トラブル解決の鉄則は「時系列に事実を把握する」ことです。「昨日」と言われれば、サポートの人間は、原因の所在を「昨日」にフォーカスし、それなりに調査に時間も費やします。でも、ユーザーの立場からすると「3日前」も「昨日」も大して違いの無い情報なのです。「3日前」に使えたものは「昨日」だって使えて当たり前。

サポート担当の人に「こりゃ大変なことになってる!」と理解してもらうため、少しセンセーショナルさを演出し、「昨日は使えた」「さっきまで使えた」などと言ってしまう…という心理は理解できます。
私だって、そう言いそうです。

結局、理不尽な非難を浴びてしまった私は、かなり落ち込んでしまいました。しかも、他の案件を後回しにしてまで対応していたのに…。
「無駄な時間を費やしてしまった」
まるで気が進まなかった飲み会に出席してしまった後のような気持ちと重なりました。

でも、そんな気持ちを引きずっていてもいいことはありません。他の案件に対しても疑心暗鬼が芽生えてしまうかもしれませんし、結果としてサポート全体の品質にも影響が出てしまうかもしれません。こういう場面では、サッと気持ちを切り替えて次に進むことが大切です。

私は、どんなに理不尽な案件であっても、教訓となったことを記録するように心がけています。これが、自分自身のスキルアップにつながると考えています。なぜなら、どんな状況でも何かしらの学びがあるはずだからです。

具体的に言えば、今回の出来事によって、お客様との関係性がまだ十分に構築されていないことに気付くことができました。こうした兆候を見逃さず、問い合わせを洗い出すことで、一般的に「非生産的」と言われがちなヘルプデスク業務に、すこしだけ日を当てることができるのではないかと考えています。

ヘルプデスクとは

ヘルプデスクは、組織や企業内で顧客や従業員からの問い合わせやサポートに対応するための専門的な部署です。主な目的は、技術的な問題や質問に対する迅速な解決策を提供することです。組織内の効率的な運用や顧客満足度の向上に重要な役割を果たします。技術的なトラブルから一般的な疑問まで、幅広い分野でサポートを提供し、円滑な業務運用を支えます。

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